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サンタはイタリア語で何と呼ぶの

2022.12.22

語学を勉強するときに意外と油断できないのが固有名詞だ。固有名詞は言語間で呼び方が変化することがよくある。例えば、聖書に出てくるアダム(Adam)はイタリア語ではアダーモ(Adamo)と呼び、イブ(Eve)はエヴァ(Eva)となる。読み方だけでなく、表記から丸ごと変わってしまうところがポイントだ。同じ要領で、ギリシャ神話の神々、ローマ皇帝、法王の名前も言語ごとにことごとく変化する。

とりとめがなくなるので、ここではフランス語の固有名詞がイタリア語になるケースに焦点を当てて話を進めよう。イタリアではパリ(Paris)をパリージ(Parigi)と呼び、セーヌ川(la Seine)をセンナ川(La Senna)と呼ぶ。当然のように呼び名が変わるのだが、よくわからないことに、呼び名が変わらないケースもある。例えば美術館のルーブル(Louvre)は、そのままルーブルと呼ぶ。イタリア語名に変換されるフランス語もあれば、そのままの呼び名でイタリア語に定着するフランス語もある。前者と後者にはどのような違いがあるのか。

年代のせいではないかという仮説を立ててみよう。古代ギリシャやローマ時代、およびそれに相当する時代に語源を持つ言葉は、その子孫にあたるフランス語、イタリア語にも該当する言葉が存在するため、呼び名の変換が可能なのではないか。先ほど例に出したパリは、紀元前1世紀にセーヌ川沿いに住んでいたパリシイ族が語源となっている。フランスの有名人を考えてみても、「我思うゆえに我あり」で有名な哲学者デカルト(Descartes)はラテン語名カルテシウス(Cartesius)から、イタリア語ではカルテジオ(Cartesio)と呼ぶが、『法の精神』のモンテスキュー(Montesquieu)や言語学者ソシュール(Saussure)はイタリア語でもモンテスキューのままであり、ソシュールのままある。実例が少なくて申し訳ないが、祖先にあたる古代の言葉に由来するものは、パリがパリージになるように、各国の言語に変換可能という法則があるのかもしれない。

などと勝手に結論づけていたら、とんでもない例外を見つけてしまった。それがサンタクロースである。イタリア語でバッボ・ナターレ(Babbo Natale)と呼ぶ。バッボが「お父ちゃん」というようなニュアンスの、親しみを込めて父親を呼ぶときの名称で、ナターレがクリスマスを意味する。つまり「クリスマス父ちゃん」だ。日本語に翻訳したときの滑稽さはさておき、サンタクロースはキリスト教に関連するのだから、ラテン語などの古い由来があってもよさそうなものなのに、まったく違った名称に変換されている。これはどういうことだろう。

気になって調べてみると、意外な事実が判明した。サンタクロースのモデルとなったのは、4世紀、東ローマ帝国ミラに実在した司教の聖ニコラオスだ。イタリア語で言うとサン・ニコラ。殺された三人の子供を蘇らせたなどの伝説が残る聖人で、子供の守護聖人とみなされている。この聖ニコラオスの命日である12月6日にお祝いをする習慣がオランダにある。オランダ語で聖ニコラオスをシンタクラースと呼ぶのだが、17世紀にアメリカに入植した際、この習慣を持ち込みサンタクロースに変化した。アメリカを中心に広まったクリスマス・イブに子供にプレゼントを配るサンタクロースが、イタリアにも伝わった。つまり発祥はヨーロッパでありながら、アメリカを経由して別の意味合いを持ってイタリアに戻ってきた。だからそれはもはやサン・ニコラではなく、まったく別物のバッボ・ナターレと呼ばれているのだ。

現在、イタリアの町並みはどこもクリスマスのにぎやかな装いを見せている。そこにはもちろんサンタの姿もある。だが、注意しなくてはならない。これはイタリアのオリジナルの習慣ではなく、比較的近代にアメリカから逆輸入された舶来品なのだ。滑稽に変換された名前がそれを裏付けている。