その名はメロン
2022.11.04
10月22日、保守政党「イタリアの同胞」の党首ジョルジャ・メローニがイタリア史上初の女性の首相となった。さらにさかのぼって9月25日、総選挙で右派勢力の勝利が決まり、「イタリアの同胞」が第一党となった時点で、メローニが首相となることが確定したのだが、この選挙当日、メローニの投降したTikTokが話題を呼んだ。メロンを両手に持ったメローニが「9月25日、言いたいことは全部言ったわ」と吐き捨ててウィンクする動画だ。イタリア語でメロンは「メローネ」。これが複数形になると「メローニ」になり、つまり彼女の名字と同じになる。メロンを持って「9月25日」はつまり自分に投票してほしいというメッセージだ。このメローニの投稿をユーモアあふれるアピールととるか、ばかげた行動ととるかは、意見の分かれるところだ。
ジョルジャ・メローニは1977年ローマ生まれ。母の影響から若くして極右政党に傾倒し、当時の与党第二党「国民同盟」書記長ジャンフランコ・フィーニのバックアップのもと、2006年に下院議員に当選する。2008年にはベルルスコーニ内閣のもとで、若干31歳にして若年層政策担当大臣に就任した。2012年に「イタリアの同胞」を立ち上げ、他の右派政党と協力体制を取りながら力をつけ、コロナや経済難で足踏みするイタリア政府を批判することで人気を集めた。
本稿ではそんなメローニの政治的立場や首相としての資質は置いといて、メローニという名字にクローズアップしたい。改めて「メロン(複数形)」なのだ。日本にも梅野や柿崎というくだものを挟み込んだ名字はあるが、くだもの単品の名字は珍しいのではないだろうか。そういう名前が多いのかと思い、イタリア人のよくある名字ランキングを検索してみると1位から5位はロッシ、フェラーリ、ルッソ、ビアンキ、ロマーノとなっていた。ロッシは「赤い」の複数形、ルッソは「ロシア人」、ビアンキは「白い」の複数形、ロマーノは「ローマ人」だ。自動車メーカーとしても名高いフェラーリはラテン語の「鍛冶屋」(ferrarius)から派生したもの。つまり職業が名字になったパターンだ。色や地名(+人)が上位にランクインしているわけだが、いずれも日本人の感覚からすると、少し変わった名字に思える。
また、興味深いのが夫婦における名字だ。基本的にイタリアでは結婚しても夫婦別姓が多いのだが、実は結婚と同時に妻は夫の名字をつけ加えなければならないという法律が今でも残っている。ただ身分証明証や免許証にはつけ加えないままでOK。そして生まれてきた子の名字は夫の姓を名乗ることが義務付けられているが、2016年の裁判で違憲という判決が出ている。
時代とともに変わりつつあるイタリアの名字事情を垣間見たところで、話をメローニに戻そう。メローニはメロンを栽培・販売していたという由来でついた主にサルデーニャ島に多い名字だ。ということはフェラーリと同じ職業系に分類される。数は多くないがココナッツやクルミ、ピスタッキオという名字も存在する。遠い昔、ココナッツやメロンを売る商人が町をうろついている姿を想像するとなかなか面白いが、イタリアの名字の歴史は本当に古くて、古代ローマ時代にまでさかのぼる。中世には各地域を取りまとめる教区教会が戸籍を管理しており、そこに名字もしっかりと記録されていたことがわかっている。ゆえに何世紀も受け継いできた名字に難癖をつけられても困るというものだ。メロンという奇妙な名字のことは頭の片隅においやって、イタリアの新しい首相の動向に注目したい。