株式会社レックス

2023年9月 歳時記

2023.09.15

9月1日は防災の日である。大正12年のこの日関東地方を襲った大地震による未曽有の災害を銘記するために定められた記念日である。しかも、今年は、その大震災から100年目の年に当たる。私事になるが、筆者の母親は、大正9年に東京港区の白金に生まれ、関東大震災の時には3才の幼児であったから、近くにあった薩摩出身の有力者の屋敷にあった松の大木の根元に、地盤がしっかりしているからと避難したと聞いた。9月1日は、立春から数えて「二百十日」、「二百二十日」は9月10日になる。「二百十日」という立春からの日和の数え方は、農作業、特に稲の開花の時期に注目して、「台風に注意せよ」との日本独特の季節の移り変わりの観察方法である。

9月20日が、彼岸入りの日である。彼岸明けが9月26日であるから、秋分の日の9月23日を中心とした一週間が「秋のお彼岸」である。ご先祖に感謝して、祖霊の供養や墓前の香華の手向け等を行う週間である。暑さ寒さも彼岸まで、というから、残暑の暑さも終わりを告げることになる。今年の夏は余計に鬱陶しいくらいの酷暑だったから、余計に、季語で四季の温度感覚を示す、秋の「冷やか」さを感じることになろう。9月18日が敬老の日で、平成15年に定められた新しい国民の祝日で、9月17日が日曜日だから、連休となる。9月15日は、「老人の日」である。15日から敬老の日までの1週間を、平成14年に「老人週間」と定めて施行しているが、「老人」を敬愛して長寿を祝う週間とは思えない。直截に「老人」と呼ぶのでなく、何故に素直に「敬老週間」と呼べないのだろうか。

稲刈りは、日本列島の場所によっても異なるが、関東地方であれば、大体9月下旬である。今年も、外国ではイナゴの異常な大発生が伝えられているが、日本ではどうなるだろうか。昔は、イナゴが、田んぼには飛び跳ねていたものだが、最近はすっかり日本では見なくなっている。信州などでは、イナゴが蛋白源の食料となって、つくだ煮が製造されて売られていた。隣国では、コロナ禍ばかりか、ダムの決壊が噂されるほどの大水害が発生している。食料が不足するのではないか、トウモロコシの先物の大量買い付けが実行されているとのニュースもある。日本は、コメに限って、休耕を奨励するほどであるが、食料安全保障について沈思黙考することが必要だ。

今年は、9月29日が、旧暦の8月15日で、仲秋の名月である。彼岸花とススキが、9月を代表する草花である。かへり来て見んと思ひしわが宿の秋萩すすきちりにけるかも(万葉集)、武蔵野は月の入るべき嶺もなし 尾花が末にかかる白露(続古今集)。彼岸花は、別名は曼珠沙華と呼ばれ、中国原産である。地下の鱗茎に強い毒性がある植物で、かつて救荒作物としてデンプンを毒抜きして食べられた。

9月になると、モズの甲高い鳴き声が木々の梢で聞こえるようになる。明治天皇御製 もずがなくかた山ばやしいろづきて 夕風さむくふきたちにけり 夏鳥が、日本列島に舞い戻りさらに南に渡り、冬鳥のコガモが飛来を始める月である。野鳥の移動は、季節の移り変わりを敏感に先取りしているのだ。東京湾の埋め立て地の一部が、野鳥観察のための公園として整備されているから、双眼鏡を片手に、バードウォッチングに出かける絶好の季節である。季節気候の移ろいの中で、変わらないものをシッカリと判別しなければならない。