レブスは読解力のパラメーター?
2023.02.17
イタリア語を勉強しはじめて長い年月が経ったが、今でもまだまだわからないことだらけだ。ただ語学を勉強するなかで、自分なりの学習法はなんとなくつかめている。一般的に外国語を学ぶにあたっては、「話す」「聞く」「読む」「書く」の四つの技能に分けることができる。ここからは個人的な意見だが、一通りの文法を勉強したら、まずは話すことに集中したい。実際に人と喋って使うことで、文法という語学の筋肉を鍛えるイメージだ。それがある程度できるようになったら、徐々に聞き取りのトレーニングも始める。話すよりも聞くことのほうが簡単だと思われがちだが、話者の話し方の癖や語彙力に対応しなければいけないので、自分の持っている語学力で発信できる話すという技能よりも難しい。聞き取りができるようになったら、今度は読むことに移行する。文章では、話し言葉の聞き取りよりも、各段に難しい表現や語彙が駆使されているので、これはもう異次元の難しさとなる。そして最後は書くこと。幅広い語彙力に加え、それらを美しく組み合わせる並外れた言語感覚が必要となるので、これはさらに難しい。まとめると、語学は「話す」「聞く」「読む」「書く」の順番で難しくなる。
ところが、「○○語を話すのは苦手だけど、読むことはできます」とおっしゃる方もなかにはいる。上述のとおり、私の持論では話すことができないのなら、読むなんてなおさら無理だ。だが、語学の学習法はひとそれぞれだし、なかには読むことに長けた天才もいるだろう。例えば、フランスの詩人ランボーの翻訳で知られる文芸批評家の小林秀雄は、フランス語がまったく喋れなかったらしい。卒業論文の口頭試問で、教官からフランス語で何か喋ることを求められ、しどろもどろに「ランボーは偉大な詩人です」とだけフランス語で答えたというエピソードもある。ただ、誤訳を指摘されているとはいえ、小林秀雄訳『地獄の季節』は評価が高いし、途轍もない熱量でランボーを批評できたということは、彼がフランス語を読んでランボーを理解したということなのだろう。
何が言いたいかというと、話すことや聞くことが瞬発力を要するためその技能レベルがわかりやすいのに対して、読解力というのは第三者から見て測定するのがとても難しいということだ。
そこで、私が提案したい読む技能の測定器がレブスだ。いわゆる判じ絵のことなのだが、イタリアでは売店でクロスワードパズルの雑誌が何十種類も売っており、そのなかの数ページが必ずレブスに充てられている。それが下に掲載した画像だ。
著作権を配慮して、いちおうぼやかして載せてみた。見にくくて恐縮だが、イラストの左上にREBUS (Frase: 5-9)とあるのは、5文字の単語と9文字の単語で構成されたフレーズという意味。右上はレブスの出題者名、イラストの下部には答えを書き込む欄がある。次にイラストの内容を見てみよう。手で握ったコンパスには北(nord)、西(ovest)、南(sud)の文字があるが東(est)がない代わりにGと書かれている。次にレンガ造りの塔の時計、つまり時間(ora)の下にGIの文字、最後に右下に卵から生まれた(nato)ばかりのヒヨコが描かれておりOの文字がついている。これをつなぎわせるとG+est+ora+GI+O+nato。gestoragionato。これを5文字の単語と9文字の単語に分けてgesto ragionatoつまり「理にかなった行為」がこのレブスの答えとなる。イラストに描かれたGやOなどの文字が、イラストから導き出した単語の前につくか後ろにつくかわからないところがポイントだ。
難易度はレブスによってそれぞれだが、答えを導き出すまでに、一つ一つのイラストから単語を導き出す語彙力と発想力、同時に全体の意味を捉える理解力も必要となる。とぼけたイラストとは裏腹に、とても高い言語能力が求められるのだ。つまり、レブスが解けるということは、ある一定の読解力が見込めるというのが私の説だ。ちなみに、記号学者のウンベルト・エーコもレブスが大好きで、レブスの解き方について本も出しているし、レオナルド・ダ・ヴィンチも多数のレブスを描いていたらしい。イタリアの偉人たちのお墨付きのレブス。読むことに自信のある猛者は、ぜひ売店でクロスワードパズル雑誌を購入してレブスに挑戦してみてはいかがだろう。
二宮大輔(翻訳家・通訳案内士)