株式会社レックス

略して書くには

2024.02.22

どの言語であっても、利便性を重んじ、長い単語を省略して使用することはよくある。

例えば、環境への配慮の高まりを受けて、企業広報の分野でも、SDGs や CCUS といった単語を目にすることが多くなってきた。SDGs は sustainable development goals の略で「持続可能な開発目標」と訳される。一方、CCUS は carbon dioxide capture, utilization and storage の略で、「二酸化炭素の回収・利用・貯蔵」のように訳される。

英訳する場合、省略形の表記をもつ単語が出てきた場合は、初出時にスペルアウト、その後ろに略記をカッコ内に入れて示し、2回目以降は略記を用いるのが一般的だ。「持続可能な開発目標」であれば、まず sustainable development goals (SDGs) と表記し、2回目以降は SDGs のみの表記とする。

スペルアウトする際に注意すべき点は、単語の冒頭を大文字にする(イニシャルキャップスにする)必要がないという点である。あくまで普通名詞なので、Sustainable Development Goals (SDGs)ではなくsustainable development goals (SDGs) と表記するのが適当である。しかし、頭文字を明確にしようと思うからなのか、イニシャルキャップスで表記している例がちらほら見受けられる。

固有名詞の場合も、普通名詞と同様、初出時にスペルアウト(単語の冒頭は大文字)、2回目以降は略記が基本だが、そうした編集方針でいいのか、迷う場合も時々ある。

その一例が「日本経済団体連合会」だ。この会は「経団連」と呼ばれることが多い。後者の呼称が一般化しているせいだろうか、英語の正式な表記も、「けいだんれん」という略称の音のローマ字を使った表記 KEIDANREN (Japan Business Federation) になっており、同会のオフィシャルサイトの本文では、Japan Business Federation ではなく、もっぱら KEIDANREN が使用されている。

同会のオフィシャルサイトにあわせた表記にすべきか、一瞬迷うのだが、ここは基本的な編集ルールにのっとった表記にするのが無難であろう。まず Japan Business Federation (Keidanren) と表記する。Keidanren は Japan Business Federation の頭字語ではないが、一種の略記とみなし、その関係を明白にし、2回目以降はKeidanrenで通す(なおKEIDANRENとオールキャップスにする必要はない)。

しかし、より複雑な場合もある。

例えば、UNICEFの正式な和名は「国際連合児童基金」だが、略称の知名度の方が高いため、正式名称を出す意味があまりない。実際のところ、日本の国内委員会の名称は「日本ユニセフ協会」であって、「日本国際連合児童基金」ではない。よって、UNICEF を和訳する場合は、漢字の「国際連合児童基金」ではなく、カタカナ書きの「ユニセフ」の方が伝わりやすいように思われる。

これは和訳に限った話ではない。もともと「ユニセフ」の正式名称は United Nations International Children’s Emergency Fund であり、その頭文字をとったのが UNICEF という略称なのだが、この頭字語の方が圧倒的に知られているからだ。

「ユニセフ」には、もう一つ複雑な事情がある。1946年にこの基金が設立された際の正式名称 United Nations International Children’s Emergency Fund は、1953年に国連の一部となった際、United Nations Children’s Fund に変わった。結果、正式名称は、UNICEFの頭字語ではなくなった(現在の正式名称をもとに、頭字語を作ればUNCFとなってしまう)。とはいえ、ユニセフのサイトには” However, UNICEF retained its original acronym.(しかしユニセフはもともとの頭文字を維持している)” とある。つまりオフィシャルな頭字語は、UNICEF のままで問題ないのである。

ここから、通常の英文編集のルールにのっとり、初出時に United Nations Children’s Fund (UNICEF) と記載してしまうと、英語としては間違いないのだが、読者が混乱してしまう可能性が出てくる。この場合は、初出時でも UNICEF という略記のみ記載した方がよいのか、検討の余地が残されている。

いずれにせよ、簡潔で分かりやすい英文や和文を作成する場合、略称の使用は外せない。基本ルールを踏まえつつ、文脈を見定めながら、個々のケースに対応していくことが求められるのだ。